煮るよ。

#煮るよ

2022-03-05 ダイダイ&グレープフルーツ&レモンマーマレード

「良いマーマレードにはストーリーを感じる」

とは、前回マーマレードアワードの表彰式に合わせて行われた講演会での、とある審査員の方のひとこと。正直なところ「それはあなたの感想ですよね」感が拭えない。というのが当初の印象だった。

で、それはそれとして、表彰式当日は「マーマレードフェスティバル」としてプロの受賞作品や本家英国マーマレードアワードの受賞作品の販売をしていたので、たくさん買い込んできた。それを帰宅後スコーン焼いてつけて食べたりすると、当たり前ながら美味い。美しく、香りは鮮烈であり、超美味い。

そうして「良いマーマレード」に触れてみると、「ストーリー」の意味するところが完全にわかってしまうのだ。

マーマレードの評価ポイントは主に、質感、色、香り、味といったところだけど、良いマーマレードでは、目で見てそして口に含んだときに、そのすべてについて「意識されたもの」を拾い上げることができる。「設計思想」と言うこともできるし、それがまさに作った本人の辿ったストーリーなのである。

最もわかりやすいのは、果皮の刻み方だ。カットが美しい果皮というのは、意識的に美しくカットしないと、他人が見て「果皮のカットが美しい」とは感じないんである。意識的に美しくカットしないことには、実際に美しくならないので。具体的には果皮の幅や長さや厚みといった寸法の均一さや、それが瓶の中でバランスよく分散するかなどについて、思考と試行を繰り返した結果すなわちストーリーが、目に見えることになる。

そして、評価するほうからすると、それを知ってしまっているがために、そこにストーリーを見出してしまう。果皮をごく薄切りにするのは非常に手間がかかるのでどう考えても意識的なものだし、かと言って厚みがあるもののキチンと切り揃えられていれば、そこには意図があるはずである。厚みも長さもバラバラなら、そこには意識が向いていないのだな、と判断せざるを得ない。(他の項目で超高評価なら「あえての素朴さの表現」として拾ってくれるかもしれないが、高等テクニックがすぎる。)

じつは、過去のマーマレードアワードにおける審査員講評(マーマレードアワードでは全作品に講評をもらえる)にも果皮の刻み方に関することが書かれており、しかもそれがまさに自分で意識したことを評価してくれる内容だったので「わかってんじゃん!」とニヤついていた。その当時は「ていうか、よくわかるな…?」と感心するのみだったのだが、いま思うとそれは「わかるもの」なんである。わたしがナイフを介して果皮に込めた想いは、伝わるのだ。


とはいえ限度はあるだろう。ならばどこまで伝わるのか。

今回ダイダイ&グレフル&レモンマーマレードを作るにあたって、わたしの思いつく限りのこだわり、すなわち「それぞれの柑橘のキャラクターをカットで表現する」ことにした。外野で聞くとちょっと何言ってるのかわかんない感じかもしれない。

ただ、「それぞれの柑橘でカットを変える」ということ自体は、加工技術として必要でもある。複数の柑橘をミックスするとなると、当然それぞれの柑橘で性質が異なり、特に果皮の固さが異なるときに全て同じように処理してしまうと、仕上がりとして食感にバラつきが出ることになる。そこで、この柑橘は皮が固いので薄く刻む、こちらは崩れやすいので茹で時間を短めに、などの配慮をして、完成時のバランスを取る。もちろんそれには何度も試作を積み上げてベストな工程を導かなくてはならず、やっぱりそこにはストーリーが生まれるって話。

とかなんとか言っておいて、今回の「こだわり」はちょっとそれとは別次元というか、ここまでの試作で茹で方は共通で良さそうなので(前回レモンを薄くしたら崩れたがあれは長時間茹ですぎたせい)、こだわるのは見た目だけの問題である。

キャラクター、つまりダイダイはダイダイの、グレープフルーツはグレープフルーツの、レモンはレモンの持っている性質、またそれぞれの違いを、カットで表そうというのである。意味わかんないかもしれないが。

いや、これはこれで真っ当な理由はある。マーマレードの質感の評価において「使っている材料の存在がわかる」という点もチェックされるため、3種類の柑橘を使っているなら3種類がきちんと区別されて目視できることは、高ポイントに繋がる、たぶん。というか、それが伝わるかどうかという挑戦なわけですよ。

まあ、別にコンテストのポイント狙いだけではなく、単にそれがかわいいから、というのが一番です。


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ということで実際に刻んでいきましょうねー。


実の大きさはグレープフルーツ、ダイダイ、レモンの順だから、これはカットの長さで表して、グレープフルーツは長め〜レモンは短めにカット。

ダイダイはやはり果皮の厚みが特徴的だから、内果皮の白い部分は削りすぎずに、厚みを活かして幅広に。

レモンの苦味の強い果皮やその鮮烈な酸味と香りは、やや薄めにカットすることでシャープさを演出する。


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おわかりいただけただろうか?


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ほら!やっぱりかわいい!

ついてきて!

ほら!!


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あっ、そういえばレシピですが、前回夏みかんの2年前レシピに準拠。

ただし、グラニュー糖60%から煮詰めはじめたら果皮の割合が高くなりすぎる感じだったので途中でプラス10%分を追加。こちらは夏みかんに比べるとペクチンが多かったのでグラニュー糖追加しても問題なく、上の写真見てわかる通りかなりいい感じに固まりましたとさ。