煮るよ。

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2021-12-03 ゆず&ライムマーマレード

ゆずは柑橘の中でも枝の棘が長く鋭いので、果実が傷つきやすい。

だから、大きくて立派で、しかも見た目がきれいなゆずは、それなりに手間をかけて育てられ収穫されているはず。その辺の家の庭の木にたくさんぶら下がってることも多いから、1個100円とかで買うのにはなんとなく逡巡してしまうが、相応の対価である。もっと言えば、柑橘は変異が多様なので、同じゆずでも「この農園のゆずは香りが濃い」「この木は果汁が多い」みたいなこともあるし、それをブランド化して販売している場合もある。

しかしそこまで考えだすとキリがないので、私の対ゆずスタンスとしては「そのとき手に入ったものを煮る」である。ゆずそのものへのこだわりは持たないようにしている。

 

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「ご近所でとれたゆずをたくさんいただいた」というご近所さんから連絡をいただき、お裾分けを頂戴した。傷のついたものが多く、サイズもバラバラだが、自家用に煮るならじゅうぶん使える。

ゆずはマーマレードの材料として、安い、美味い、簡単の3拍子がそろっており大変優秀。今回のようにタダで手に入ることもあるくらいありふれているし(時期は限られるけど)、ゆずをゆず足らしめる香りと風味は火にかけてもその鮮やかさを失わない。そしてなんといっても、外果皮の柔らかさとペクチンの豊富さが、マーマレード作りにおいて大きなアドバンテージとなっている。外果皮が柔らかいから茹でる時間が短いし、ペクチンが豊富だからきれいに固まる。
ゆずをいただく少し前に、第3回ダルメイン世界マーマレードアワード日本大会のイベントで、ダルメイン現当主によるマーマレード講座的なものがあり、そこでゆずを扱っていた。当主のジェーン・ヘーゼル・マコッシュ氏はオンラインで解説しながら、会場で日本のスタッフがジャム製作するというスタイルだったが、印象的だったのはジェーンのゆずへの愛である。どうやら、ゆずは、英国では手に入らない。ゆずの香りは英国マーマレーディストの憧れなのである。日本でセビルオレンジが手に入らないようなもんか。
で、その時のレシピがゆずマーマレードとしても超簡単レシピで、せっかくなのでまず準拠して作ってみた。
 

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まあ、簡単といっても「外果皮を茹でて細かく刻む」という工程はあるので、マーマレードではない簡単ジャム(ブルーベリーとか、ルバーブとか、ザクザク切って煮るだけ)に比べれば手間はある。しかしまあ、「茹でて刻む」工程は難しくはない作業だけだし、なんなら刻むのはハサミでもいける(ジェーンも「ハーブ用ハサミ(5枚刃のハサミ)使こたらめっちゃラクやで!」ゆうてはった)ので。
ただ、このレシピはワタの部分もすべて使っているので、無駄はないけど、クリアなジュレにはならない。

そこで、見た目を重視したレシピでもうひと鍋。
 

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こちらは、外果皮を茹でたあと、スプーンでワタをこそぎ取る、ペクチン液(茹で汁)は細かい目のザルで濾す、などしたもの。その他の部分は基本的に同じ。
ゆずはものや状態によって果汁が少ないので、pHが思ったより下がらないことがあって、その場合はレモン汁の添加など検討する必要もあるけど、今回は問題なし。
二つのレシピの出来上がりを比べてみると、瓶で見るレベルではあんまりわかりませんね…(スプーンで掬うとわかる、はず)。
 

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(左が1回目、右が2回目)
 
さて、まだゆずが残っているけどどうしよう?
また同じレシピで作るのも芸がないので、思い付きで、こちらも余っていたライムを合わせることに。思い付きといっても、ゆずとライムのマーマレードはオリジナルでもなんでもなく、商品としても見るラインナップ。
ただ、初めて作るし用意されたレシピがあるわけではないし、完成の味もイメージできていない。つまりビジョンがないのである。
 

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基本的なマーマレードの作り方で問題ないと思うが、おそらくひとつのポイントになるのが「ゆずとライムの食感のバランス」である。上述のようにゆずの皮は柔らかいので30分も茹でればじゅうぶんだが、一方のライムを同じ時間で済ませてしまうと、ライムだけが固い状態で残り、食感を損ねてしまう。オランジュルクラというメーカーの「ライム&ゆずマーマレード」、これがゆずマーマレードのベースの中にハートに抜いたライムの皮が入ってる超かわいいマーマレードで、しかしかわいいだけじゃなく形を変えて加えることで多少の食感の差異は気にならなくなるという設計なんだな…。しかし手間は絶望的だし、今回はそこまでできない。
そこで、まずライムだけカットして果汁を搾り、ワタをつけたままの外果皮を茹でる。しっかり柔らかくなるよう、長めに2時間茹で、さらに一晩寝かせる。まあ一晩寝かせるのは人間のほうですが。
 

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(ライムだけをカットして水で煮ること…)
 

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(…約2時間)
 
あとは、ゆず単独の時の2回目レシピとおなじ。ライムを刻む際は意識的に細め、小さめに。こちらも食感のバランスをとるため。
 

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砂糖を加えて煮詰め、さいごに搾っておいたライム果汁を加えて煮立てて出来上がり。
なんだけど、リンクルテストでも温度計でも終わりの判断が難しく、少し煮詰めすぎてしまった。結果としてやや甘味が強い、やや固すぎる仕上がりに。なしではない範囲だけど。色合いとして若干暗い色になったのも煮詰めすぎか、あるいはライムの緑色のせいだろうか。
 

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という反省点はあるものの、しかし味がめちゃくちゃ良い!
ゆず単独ももちろんうまいのだけど、奥行きがグッと広がる。これはレシピをブラッシュアップしてレパートリーにいれたいやつ。
 

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ライムが良い香りなのは知ってたけど、脇役でマーマレードに入れて風味に奥行きをだす用途にめちゃくちゃ使えるな…。オランジュルクラの「夏みかんマーマレード」にもライム果汁が入ってたりする。ペクチンも多いらしい。
来年はライムをもう少し多めに注文しようかな。