煮るよ。

#煮るよ

2022-03-30 いちごレモンジャム

本ブログの記事一覧を見れば一目瞭然だが、今シーズンも相当数の夏みかんを煮ている。そしてレシピは混迷を極め、2周回って最後のチャンスでギリギリなんとか間に合った、というのがあらすじ。

 

しかし、ハッピーエンドの裏には、その犠牲となった数々の物語がある。そして、それらにきらびやかな最終回は用意されず、人知れず更なる物語を紡ぐのである。

 

いや、夏みかんマーマレードの試作品の中で、ちょっと許容できないな、という仕上がりのものについて何とかしようという話です。なお、タイトルは後で回収するのでよろしくお願いします。

ちょっと許容できない仕上がりとは、具体的には質感の問題。つまり「仕上がりがゆるすぎる夏みかんマーマレードをリメイクして良い感じにする」ことが目標だ。

では、マーマレードの「質感」とはなんなのか。

良いマーマレードの基準のひとつに「テクスチャ」「質感」と言われる項目がある。あまりに漠然としており、マーマレード沼の外からは何のことかよくわからないかもしれない。ちなみに他の項目は「外観」「香り」「風味」であるから、それ以外の何か、である。まあ、外観とも香りとも風味とも無関係ではいられないのだけど、しかしそれらの括りでは言い表せない、マーマレードの性質である。

個人的には次のように理解している。外観は目、香りは鼻、風味は舌による評価であり、そしてテクスチャを評価するのは手。スプーンでそのマーマレードをすくったときの、その手に伝わる感触である。固さ、と言えばわかりやすいが、固さを内包するもう少し広い概念である。

は?って感じかもしれませんが、これはまあ、実際やってみるとわかる。

柑橘のペクチンによるゼリーが、固すぎず、ゆるすぎず。スプーンを差し込む瞬間の確かな感触がありつつも抵抗なく、途中にプツプツと果皮と出会う「音」が聞こえる。掬い上げたときに滴り落ちるようではダメで、ぷるぷると質量のあるゼリーが、宝石のごとく光を乱反射してきらきらと輝く。

いや、例えばマーマレードアワードの審査員がどう考えてるのか本当のところは知らないけど、スプーンで掬えば「良いマーマレード」かどうかがわかると言うのは、わたしの個人的な見解としては、そういうものです。

この「質感」が私個人の感覚に鑑みて及第点に達していない、今回で言うとゼリーがゆるすぎると判断された夏みかんマーマレードのいくつかのロットを回収。いくつかといっても結構多い。全部で10瓶以上あるぞ。大丈夫かこれ。

 

どのようにして修正していくか。

いちばん簡単に考えられるのは、さらに煮詰める。これは単純にペクチン濃度を濃くすることで固める戦略だけど、じつはこれら「ゆるいマーマレード」は、初めから砂糖を多く入れてしまった結果として煮詰め方が足りないためにペクチン濃度が低いと考えられる、というものなので、ゆるいクセに糖度が高い。したがって、これを単純に煮詰めてしまうと、おそらく固まりはするだろうが、甘みがキツいことになりそうである。

ペクチン濃度濃いめの夏みかんマーマレードを作って混ぜる、という案もあり得る。ちょうどよく固まるペクチン濃度を100として、仮に今のゆるいマーマレードが80なら、新たに120のマーマレードを作って混ぜればペクチン濃度100のマーマレードができるのでは、という理科の問題。悪くないが、相当量の夏みかんマーマレード同士を混ぜることになるので、出来上がってくる修正夏みかんマーマレードの量が恐怖。そもそも夏みかんの在庫が少なく、多量のゆるめ夏みかんマーマレードを中和するだけの量が作れないので、実現不可能だ。

あとはもう、他からペクチンを持ってくるしかない。ペクチンが多いといえばレモンである。レモンなら手元にそこそこの数がある。また、濃度の高いペクチン液が取れれば、マーマレードの分量がいたずらに増えることもないだろう。はい採用。

とはいえ、やったことがないのでちょっとどうなるかわからないが…まあ夏みかんにレモン入れて不味くはならんやろ。

 

工程イメージは
・レモンを刻んで茹でてペクチン液を取る
・よく煮詰めてペクチン濃度を上げる
夏みかんマーマレードに茹で汁と果汁を加える
・この時点での糖度を測って、50度くらいまで砂糖を加える
・60超えるまで煮詰める
くらいの感じ。いちおう「夏みかんマーマレード」としてリメイクしたいので、レモンはペクチン抽出液と果汁だけ利用して、果皮を加えることはしない。

 

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まず、レモンを搾ってワタを外し、果皮は内果皮を少し残して削ぎ、薄切りにカットする。ワタやら削いだ内果皮やら果汁を濾した屑やらは鍋に入れて煮出しておく。

別の鍋で果皮を熱湯から茹でていく。いつもは1時間くらい茹でる中で茹で汁が減ってきたら水を足していたが、今回は「水を替える」ことにする。茹で汁はワタを煮出してる鍋に入れて、こちらも煮詰めていく。

1時間ほど茹でる間に水を3回替えた。これで、レモンの果皮はそこそこ柔らかく、また苦味がしっかり抜けている。つまりペクチンをレモンの風味がしっかりと茹で汁の方に移っている、と良いなあ。

上記の想定のとおり、夏みかんマーマレードを瓶から全て出して、そこにレモンの茹で汁を加えて混ぜてやる。で、糖度を測ると51度と出た。なるほどそれなら砂糖の追加は無しで、このまま煮詰めはじめる。

 

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点火して煮詰めていくが、案の定、鍋の中身の量が多くて辟易する。こういうのは結果的に加熱時間が長くなってしまうので、あまり良くなさそう…

また、混ぜた当初、色が曇ってしまった感じがしたが、火にかけたらある程度透明感が戻った。冷えた夏みかんマーマレードペクチンが、粒状に分散して混じり合わなかったのではないか、それが加熱で溶けて透明に戻ったのではないか、と考えてるけどよくわからない。

途中、レモン果汁の半分を加えて、温度やリンクルテストで判断して火を止める。

それにしても多い。これだけ大量だと、瓶詰めして煮沸消毒するだけで一仕事である。

 

一晩冷まして、翌朝に具合をチェック。毎回、不安と期待の入り混じる、まあまあ緊張の瞬間である。

 

結果は…ゆるい!

全然固まってない!つらい!まったく無駄な手間だった!

と、がっかりしたのだけど、3日ほど経ってから見たら固まってた。

なんだよ!よかったよ!この、「後から固まる」原理はなんなのか、誰か教えてください。

 

ただし、固まったのは良かったものの、どうしても全体の加熱時間が長くなってしまったので、色味・風味は劣る。その辺はがっつりリキュールなど足してリメイクした方が誤魔化せたかもしれない。

あと、やはり全て一度にやるには量が多すぎたと反省。小分けにしていろんな方法で試した方が良かったな。あまり時間と手間をかけたくないと横着したのが仇となった。

 

こうして、夏みかんマーマレードの後日譚は多少の反省を残しつつ、無事に幕を閉…

いや、待って、ここにレモンの皮の茹でたやつ(と果汁半分)が残ってるんだけど。

 

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レモンマーマレードにするには、ペクチンを回収してしまったし、苦味も抜いてしまったし…うーむ、レモン…レモン…

あ、以前、いちごジャムにレモン果汁を多めに搾ったららさっぱりして美味しかったやつ、あれを参考にしてはどうか。

 

ということで、満を持しての、いちごレモンジャム。

 

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これはシンプルに、いちごジャムを作ってそこにレモン果汁とレモン果皮を加えるのみで良いでしょう。砂糖の量も、いちごの70%で決めてしまう。レモン果汁とレモン果皮分を考慮しても良いけど、さっぱり感推しでいくならその分無しでも良いかと。新たに計量して洗い物増やすのが面倒だっただけ、というのが本音ですが。

 

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案の定、さっぱりしたいちごジャム、そしてレモン果皮が加わったことで食感に変化があって結構良いのでは?見た目もかわいい。レモン果汁と果皮の水分足しただけ、もう少し余計に煮詰めてもう少しトロみがあったほうが好みかも。

悪くないレシピだと思うけど、レモンは今回みたいにがっつり茹でこぼさないとかなり苦いので(そして苦味といちごは共存しづらいので…)、このために一から始めると案外面倒だなという感想。

もしやるなら、せっかくだからもう一工夫しても良いかなあ。ミント入れてみるとか。