煮るよ。

#煮るよ

2022-02-16 夏みかんマーマレード

夏みかんマーマレードにはそれなりに自信があったのだけど、今シーズンはここまで2回連続でゼリーがあまり固まらないという、やや不満な出来となった。

味は良い。しかし「良いマーマレード」という美意識にもとづいて、ゼリーをなんとか固めたい。

 

マーマレードのゼリーを固めるのは、成分としてはペクチンである。

ペクチンは植物の細胞壁中に含まれ、言ってみれば野菜や果物の「硬さ」のもと。しかし、ペクチンというのは「ペクチン」という決まった分子があるというよりは、ガラクツロン酸が重合したポリガラクツロン酸を主成分とする複合多糖類なので、その性質に幅がある。分子量の大小だったり、ガラクツロン酸中のカルボキシル基のメチルエステル化具合なんかによってもペクチンとしての性質が変化する。これが、野菜によって硬さが違う、あるいは果物が熟すと柔らかくなる、といったことの原因である。加工においては、種類はもちろん生育状況や熟度などによって、同じ工程でも応答が違うということになる。

みたいな話を、ペクチンをどうやって扱い、うまいことゼリーを固めるかについて考え調べてるうちに、ネットで見つかる程度ではあるけど論文で読んだりしていた。いちばん参考にしたのは↓

渕上倫子「 野菜・果実のペクチン質に関する調理科学的研究」(日本家政学会誌 2014, 65, 479-491)

この著者の方、「ペクチン」で検索すると必ず出てくるんですが、数十年にわたってペクチン関連の研究をされているようです。上の論文はそれまでの研究の総括的な内容となっているもので、はっきり言ってネットをいくら検索してもこれ以上の内容は出てこない。もちろん、レビュー論文として引用文献も多数挙がっているので、詳細も追える。

とりあえず気になる点としては、

 ① 加熱時のpHは4のときもっともペクチンの分解が少ない

 ② 70℃以下で加熱するとむしろペクチンが硬化する

なるほど…

①についてはなかなか適用が難しい。というのも、ペクチンの分解が少ない方がゼリーは固くなるかもしれないが、果皮も固くなってしまうのでは?という疑問が浮かぶ。また、以前の講習会で「酸性の方がペクチンの溶出が多い」と教わったこともあり、その辺りとの関連がちょっとよくわからない。また、ワタを外さないで茹で始める1回目のレシピでは多少果肉がのこるために茹で汁はやや酸性となるが、このときもゼリーは固くないので、効果のほどがあやしい。単にpHがそこまで低くなかったのかもしれないけど(測ってない)。

②は、水から茹でるとペクチンが硬化する温度域を通過するので沸騰したお湯に材料を投入したほうが柔らかくなるという、まあ煮物を作る時の知識なんですが、これは即採用。


ということで、①は今回具体的に取り入れることはしないが、頭に入れつつ工程を見つめ直してみる。②はそのとおりに、先に鍋でお湯を沸かしてそこに刻んだ果皮を入れて茹で始めることにする。これは「やってみて逆効果」ってこともなさそうだし、たとえ意味なくても手間は変わらないし。


他は基本的に前回と同じレシピとするが、果皮を茹でる際に茹で汁を強めに煮詰めて、ペクチン濃度を濃くしておく。具体的には、4倍の水で茹で始めて、4分の1になるまで煮詰めた。

また、砂糖ははじめから多めの80%を目安としておく。上記のとおり茹で汁を煮詰めて減らしているので、砂糖を加えた後の仕上げの煮詰め具合が少なくていいだろうという目算だ。


で、結果は、煮詰めすぎなのか、味が濃いというか、苦味が際立ってしまった。また、皮も固めに仕上がった。ゼリーはしっかり固まってる。

しかしこれ、工程の変更の効果なのか、単に糖度が高いからなのか、よくわからない。糖度あげれば固まるのであれば、その方が考え方はラクでだけど。ほんとうは工程をひとつ変えたらそれ以外を一切変えずに進めないと、効果の評価ができない。しかしなかなかね、時間も材料も限られていると思うと、焦っていろいろやってしまう。


あ、もうひとつ、今回変えたところがある。果皮の刻み方を、厚さは同じで少し短くしてみた。

瓶詰めの際、どうやら瓶の直径に対する果皮の長さでけっこう瓶の中でのバラけ具合が変わるようで、短くした方が果皮の向きがランダムな感じになる。長いと縦向きに揃ってしまい、まあそれが良いという意見もあるかもしれないけど、個人的にはランダムなほうが好みなので短めに修正して、これは狙い通り。